お知らせ

自選短編の紹介を始めました

これまで、岡本俊弥がSmall Bear Press名義でPOD、kindle出版してきた6冊から、代表的な作品を紹介しています。各著書から2作づつ、毎週1作のペースで公開します。どれも短編クラスの長さがあるため、読むのにちょっと時間がかか...
夏の丘 ロケットの夏

ネームレス

「言っとくけど、これがオカルトだったら協力しないぜ」 いきなり言う。「話も聞かずにそれかよ」「ジジイはフェイクに引っかかりやすい。加齢は悪い方に影響する。意志の弱いおまえなんか、特に怪しいな」 毒舌に鼻白むというか呆れてしまう。「頭が薄くな...
夏の丘 ロケットの夏

子どもの時間

幼いころ、ぼくは一日中行方不明になったことがある。 父と祖母が探し回っても見つからず、近所の人たちを巻き込んで騒ぎになった。 夕方遅くになって、歌を唄いながら帰ってきたという。「おまえどこ行っとった」 と聞かれてると、自分の家の方向を指す。...
豚の絶滅と復活について

倫理委員会

カラが言う。「科学的な根拠のない主張である。リファレンスが不備な上に、関連する論文はフルもショートもレターもない。いわゆる独自研究である」 ポプが言う。「ある団体が主催するニュースサイトに記述がある。署名記事ではないがこれが根拠である。読者...
豚の絶滅と復活について

円環

日が沈んでから六時間が経っている。 Hは目を覚ます。部屋は蒼い常夜灯が灯るだけで暗い。分厚めのカーテンは閉じられている。 起き上がり、トイレに向かい、洗面台で歯を磨く。 居間のドアを開く。 灯りをつけ座卓に腰を下ろすと、ディスプレイを点ける...
千の夢

陰謀論

プロのカウンセラーに任せるべきだろう。 と、思うような仕事をしなければならない時がある。断るという選択肢もなくはないが、今後のキャリアを考えると、あまりよろしくない。 喜んでは、できないけど。 「監視されてるみたいでね」 小さな会議室の一画...
千の夢

抗老夢

「生きている価値はないと主張されるわけですね、生きるべきではないと」「生きるべきではないとは言っていません」 声は落ち着いている。「では、何と」「生きている価値が低下するのです」「価値ですか。しかし、そもそも人には永続的に生存する権利がある...
猫の王

匣(はこ)

その建物は、路地を抜けたどん詰まりにある。 築半世紀を経た住宅が多い宅地の一画だ。居住者の多くは高齢者だと聞く。もともと近郊農家の土地で、工場労働者のためのベッドタウンのような売られ方をした。それでも全部は売れず、放置された空き地が目立つ。...
猫の王

決定論

この世界では、すべてのできごとが、あらかじめ決められていると教えられてきた。 教室の中は、足首まである長衣を着た生徒たちで埋まっている。 修行僧のようだが、ここは僧房ではない。暗い冬、暖房のない室内は凍えるほど寒くなる。織りが粗く温かみに欠...
二〇三八年から来た兵士

流れついたガラス

この物語の主人公を、仮に少年Tと呼ぶことにする。大学生ではあったが未成年なのだから、少年と言ってもおかしくはない。 少年は、神戸のとある大学の一年生だった。 彼は昼下がりの教室で、懸命にガリ版を切っている。鉄筆をやすり板に押しつけながら、一...
二〇三八年から来た兵士

ぼくは毎日ネットから記事を集める。 丸ごとリツイート、シェア、コピーしたりはしない。中身を要約し、他の記事との関連付けを明らかにして、新たな読み物を創る。独自ドメインを取ったホームページで公開する。わずかな広告はあるものの、基本的に記事は自...